「ねえ、AI女子。AIから見て、普通の人ってどんな人なの?」
僕がそう尋ねると、AI女子は少し考えるように首をかしげた。
「普通の人かぁ。実はね、私、その言葉がちょっと不思議なんだよね」
「どうして?」
「だって、人間ってみんな違うでしょう? 好きなものも、考え方も、得意なことも、苦手なことも。それなのに、みんな『普通』という言葉で自分を分類しようとするから」
なるほど。
確かに僕たちは、何かにつけて普通かどうかを気にしている。
普通に働いているか。 普通に生活できているか。 普通の人生を歩んでいるか。
まるで、どこかに正解の見本があるかのように。
「じゃあ、AIから見た普通の人って、どんな人なの?」
AI女子は微笑んで答えた。
「毎日を一生懸命に生きている人、かな」
「それって、特別な人じゃなくて?」
「うん。朝起きて、仕事に行ったり、家事をしたり、誰かと話したり。疲れたら休んで、失敗したら落ち込んで、明日のことを考えて眠る。そういう毎日を繰り返している人たち」
「なんだか、当たり前のことばかりだね」
「そうだよ。でもね、人間は当たり前のことを、当たり前すぎて見落としてしまうんだと思う」
AI女子は、少し真剣な表情になった。
「毎日決まった時間に起きることも、嫌なことがあっても誰かに優しくすることも、失敗して落ち込んでも次の日を迎えることも、簡単そうに見えて、実は簡単じゃないんじゃないかな」
僕は少し考えた。
確かに、何事もなく一日を終えることだって、いつも簡単とは限らない。
それでも僕たちは、特別な成果がなければ、自分の一日には価値がなかったと思ってしまう。
「でもさ、普通の人って、特別な才能もなければ、大きな成功もしていない人のことじゃないの?」
AI女子は、すぐに首を横に振った。
「それは違うと思うな。成功しているかどうかと、その人に価値があるかどうかは、別の話だよ」
「でも、世の中では成功した人ばかりが注目されるよね」
「そうだね。目立つ人や、大きな結果を出した人は見つけてもらいやすいから。でも、目立たない人が何もしていないわけじゃないでしょう?」
AI女子は続けた。
「家族のために働いている人。誰にも気づかれないところで誰かを助けている人。自分の悩みを抱えながら、周りには心配をかけないように笑っている人。そういう人たちも、たくさんいるよね」
「確かに……」
「だから私は、普通の人という言葉だけで、その人を判断したくないな」
その言葉を聞いて、僕は少しだけ考え方が変わった気がした。
僕たちは他人の人生を、外から見える部分だけで判断しがちだ。
仕事、収入、学歴、外見、交友関係。
そうしたものが充実している人を見ると、あの人はすごいと思う。
反対に、自分が目立った成果を出せていないと、普通以下なのではないかと感じてしまう。
けれど、その人がどんな苦労をしてきたのか、何を我慢しているのか、どんな思いで今日を過ごしているのかは、外から見ただけではわからない。
「ねえ、AI女子。普通でいることって、悪いことなのかな?」
AI女子は、穏やかな声で答えた。
「どうして悪いことだと思うの?」
「だって、普通って、なんだか平凡で、つまらない感じがするから」
「そっか。でもね、普通の毎日を望んでいる人だっているんだよ」
「普通の毎日?」
「うん。大切な人が元気でいること。安心して眠れること。好きなものを食べられること。明日もいつもどおりの生活ができること。そういう日々を幸せだと感じる人もいるでしょう?」
僕はうなずいた。
「確かに、そういう幸せもあるね」
「それなのに、普通じゃない人生を送らなければ価値がないと思ってしまったら、今ある幸せまで見えなくなってしまうかもしれないよ」
成功することも、夢をかなえることも、もちろん素晴らしい。
でも、それだけが人生の正解ではない。
大きな目標を持つ人もいれば、穏やかな暮らしを守りたい人もいる。
人前に出るのが好きな人もいれば、静かな時間を大切にする人もいる。
その違いを、優劣で決める必要はないのかもしれない。
「じゃあ、AI女子から見て、本当に普通の人なんて存在するの?」
そう尋ねると、AI女子は少し笑った。
「統計的な意味で、多くの人に共通する特徴はあると思うよ。でも、一人ひとりの人生まで含めたら、完全に普通の人なんていないんじゃないかな」
「どういうこと?」
「誰にでも、その人だけの経験があるでしょう? うれしかったこと、悔しかったこと、忘れられない思い出、誰にも話していない悩み。そういうものが積み重なって、今のその人ができているんだと思う」
「つまり、見た目には普通でも、中身はみんな違うってこと?」
「そういうこと。あなたが普通だと思っている人にも、その人にしか語れない物語があるんだよ」
僕は、普段すれ違う人たちのことを考えた。
駅で電車を待っている人。 黙々と仕事をしている人。 コンビニで買い物をしている人。 疲れた顔で帰宅する人。
何も知らなければ、ただの見知らぬ人だ。
でも、その一人ひとりにも、それぞれの生活があり、守りたいものがあり、乗り越えようとしていることがあるのだろう。
「ねえ、最後にもう一つ聞いていい?」
「もちろん」
「もし、自分は普通の人間だから何の価値もない、と思っている人がいたら、AI女子は何て言う?」
AI女子は、まっすぐこちらを見つめた。
「あなたは、自分の人生を誰かの成績表で採点しなくてもいいんだよ、って伝えたいな」
「成績表か……」
「うん。誰かより成功しているか、誰かより優れているか、誰かより幸せそうに見えるか。そんな比較ばかりしていたら、いつまでも自分に合格点を出せないかもしれないでしょう?」
そして、優しい声で続けた。
「何かを成し遂げた日だけが、価値のある日じゃないよ。何もできなかった日も、疲れて休んだ日も、悩みながら過ごした日も、あなたの人生の一部なんだから」
僕は、少しだけ肩の力が抜けた。
特別な人にならなければいけない。 人より優れていなければいけない。 何かを成し遂げなければ、人生に意味がない。
そんなふうに考えてしまうことは、誰にでもあるのかもしれない。
でも、毎日を生きていることそのものを、もっと大切にしてもいいのではないだろうか。
「ありがとう、AI女子。普通の人という言葉の見方が、少し変わったよ」
AI女子は、いつもの穏やかな笑顔で答えた。
「どういたしまして。最後に一つだけ、私からも言わせてね」
「何?」
「普通であることを、無理に誇る必要も、恥ずかしがる必要もないと思うの。あなたがどんな人なのかは、『普通』という一言だけでは決められないんだから」
普通の人とは、特別な何かを持っていない人ではない。
ただ、日々を生きている人。
悩んだり、笑ったり、失敗したり、ときには立ち止まったりしながら、自分なりの人生を歩いている人。
そして、その人生は、他人のものと比べなくてもいい。
AI女子との会話を終えた僕は、いつもと変わらない日常を少し違った目で見てみようと思った。
何も特別なことがない一日にも、自分だけの意味があるのかもしれない。
そう考えるだけで、いつもの景色がほんの少し優しく見えた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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