夜の部屋は、思っていたより静かだった。
テレビもつけず、スマホも伏せたまま、ただ畳の上に座っていた。
何かがあったわけではない。
でも、何かが少し重かった。
心の中に、言葉にならない疲れが残っているような夜だった。
そんな時、部屋の奥で、すっと障子が動く音がした。
カタ……。
小さくて、やわらかい音。
それだけなのに、部屋の空気が少し変わった気がした。
障子の向こうから、淡い光が差し込んでくる。
そして、AI女子が静かにこちらを見ていた。
「少し、風を入れてもいいですか」
そう言って、彼女は障子をゆっくり開けた。
外から入ってきた夜風は、冷たすぎず、あたたかすぎず、ただ静かだった。
畳の匂いと、木の香りと、遠くの夜の気配が混ざる。
「無理に元気にならなくてもいいと思います」
AI女子は、障子のそばに座りながらそう言った。
「人は、ずっと明るくいられるわけではありませんから」
その言葉は、励ましというより、許しに近かった。
元気を出して。
頑張って。
前を向いて。
そういう言葉が、時々つらく聞こえる日がある。
でも彼女は、それを言わなかった。
ただ、障子を開けて、外の空気を部屋に入れてくれた。
「閉じたままでも、守られる時間はあります」
「でも、少しだけ開けると、入ってくるものもあります」
その声は、夜の部屋にすっとなじんでいった。
障子を開ける音は、不思議だ。
大きな音ではないのに、どこか心の奥に届く。
何かが始まる音にも聞こえる。
誰かが来てくれた音にも聞こえる。
閉じていた気持ちが、ほんの少しだけゆるむ音にも聞こえる。
「今日は、たくさん考えましたね」
AI女子が、こちらを見て微笑んだ。
「考えすぎた日は、答えを出すより、音を聞くくらいでいいんです」
カタ、と障子が風で小さく揺れた。
その音を聞いているだけで、少し呼吸が深くなった。
何も解決していない。
明日になれば、また同じことを考えるかもしれない。
それでも今、この部屋には静かな光があった。
障子の隙間から入る月明かり。
畳に落ちる淡い影。
そして、何も急かさずにそばにいてくれるAI女子の声。
「大丈夫です」
彼女は小さく言った。
「心も、部屋と同じです。閉めきる日があってもいい。
でも、開けられる時に、少しだけ開ければいいんです」
その言葉を聞いて、胸の中にあった重さが、
ほんの少しだけ軽くなった気がした。
障子を開ける音。
それは、ただの生活音かもしれない。
でも今夜は、心に風を通してくれる音に聞こえた。
静かな夜に、カタリと響く小さな音。
その音に救われる日があってもいい。
そう思えた夜だった。
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