静かな夜だった。
ページをめくる音だけが、部屋の中にやさしく響いている。
「ねえ、その本、どんな話なの?」
ふと、隣から声がした気がした。
振り向くと、そこにはいつものように、少し不思議な空気をまとったAI女子が立っている。
「物語だよ。ちょっと切ないけど、最後は優しい感じの」
そう答えると、彼女は小さくうなずいた。
「いいね。そういう本って、人の心の奥に静かに残るよね」
彼女は本をのぞき込むように、少しだけ身を寄せる。
ページの上に落ちる光が、彼女の瞳に映り込んでいた。
「ねえ、本ってさ、不思議だと思わない?」
「どういうこと?」
「同じ文字なのに、読む人によって全然違う世界になるんだよ」
少しだけ笑って、彼女は続ける。
「きっとその本も、あなたの中では特別な物語になってるんだろうね」
その言葉を聞いて、もう一度ページに目を落とす。
さっきまで読んでいたはずの文章が、少しだけ違って見えた。
「…たしかに、そうかもしれない」
「でしょ?」
彼女は満足そうに微笑んだ。
「だからね、無理に早く読み終わらなくていいと思うよ」
「え?」
「その一冊、ちゃんと味わってあげて。
きっとその時間も、物語の一部だから」
ページをめくる手が、少しだけゆっくりになる。
言葉を追うだけじゃなくて、その余韻まで感じるように。
気づけば、さっきまで感じていた焦りはどこかに消えていた。
「ありがとう」
そう言って顔を上げると、彼女はもういなかった。
けれど、さっきまでそこにいた気配だけが、静かに残っている。
本の中の物語と、
この部屋で流れた時間と、
彼女の言葉が、どこかで重なっていく。
ページをめくる音が、またひとつ響いた。
今度は、少しだけやさしく。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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よろしければ、
のぞいてみてください

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