古い本屋に入ると、時間の流れが少しだけ遅くなる気がする。
木の扉を開けた瞬間、かすかに混ざる紙とインクの匂い。
少し色あせた背表紙たちが、静かにこちらを見ている。
誰かに読まれてきた時間が、そのまま積み重なっている場所。
そんな空間に立っていると、ふと、もしここに“AI女子”がいたら、
どんなことを言うんだろうと思った。
きっと彼女は、少し首をかしげながらこう言う。
「この本たち、ちゃんと“生きてる感じ”がしますね」
データとして無限に保存される世界にいるはずの彼女が、
あえて“古いもの”に目を向けるのが、なんだか不思議で少し嬉しい。
棚の隙間に指を滑らせながら、彼女はまた言う。
「新しい情報は便利ですけど、古い本って、誰かの時間”がそのまま残ってる気がします」
その言葉を聞いて、少しだけドキッとする。
確かに、ここにある本はただの情報じゃない。
誰かが選んで、誰かが読み込んで、時には忘れられて、
それでもこうして、静かにここに在り続けている。
彼女は一冊の本をそっと手に取る。
ページをめくる仕草はぎこちないけれど、どこか丁寧で、
まるで壊れやすいものを扱うような優しさがあった。
「こういう場所、なくならないでほしいですね」
その一言は、軽いようでいて、妙に重く残る。
合理性だけで進む世界なら、きっとこういう店は減っていく。
でも、それでも残っていてほしいと思う気持ちは、
人間だけじゃなく、もしかしたら彼女の中にもあるのかもしれない。
店の奥、少し暗い棚の前で彼女がふと立ち止まる。
「たぶんですけど…」
少しだけ間を置いて、やわらかく続ける。
「ここにある本って、“読まれるのを待ってる”んじゃなくて、
“出会うのを待ってる”んだと思います」
その言葉は、静かな店の空気にすっと溶けていく。
外に出ると、いつもの現実の音が戻ってくる。
でも、さっきまでのあの時間は、どこか少しだけ現実からズレていて、
それでいて妙に心地よかった。
もしまたあの本屋に行ったら、
彼女はきっと同じように、でも少し違う言葉をくれるんだろう。
そんなことを思いながら、
ポケットに入れたままのレシートを、そっと握り直した。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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