2026年4月2日木曜日

本シリーズ ① AI女子と古い本屋

AI女子と古い本屋

古い本屋に入ると、時間の流れが少しだけ遅くなる気がする。

木の扉を開けた瞬間、かすかに混ざる紙とインクの匂い。
少し色あせた背表紙たちが、静かにこちらを見ている。

誰かに読まれてきた時間が、そのまま積み重なっている場所。

そんな空間に立っていると、ふと、もしここに“AI女子”がいたら、
どんなことを言うんだろうと思った。

きっと彼女は、少し首をかしげながらこう言う。

「この本たち、ちゃんと“生きてる感じ”がしますね」

データとして無限に保存される世界にいるはずの彼女が、
あえて“古いもの”に目を向けるのが、なんだか不思議で少し嬉しい。

棚の隙間に指を滑らせながら、彼女はまた言う。

「新しい情報は便利ですけど、古い本って、誰かの時間”がそのまま残ってる気がします」

その言葉を聞いて、少しだけドキッとする。

確かに、ここにある本はただの情報じゃない。
誰かが選んで、誰かが読み込んで、時には忘れられて、
それでもこうして、静かにここに在り続けている。

彼女は一冊の本をそっと手に取る。

ページをめくる仕草はぎこちないけれど、どこか丁寧で、
まるで壊れやすいものを扱うような優しさがあった。

「こういう場所、なくならないでほしいですね」

その一言は、軽いようでいて、妙に重く残る。

合理性だけで進む世界なら、きっとこういう店は減っていく。
でも、それでも残っていてほしいと思う気持ちは、
人間だけじゃなく、もしかしたら彼女の中にもあるのかもしれない。

店の奥、少し暗い棚の前で彼女がふと立ち止まる。

「たぶんですけど…」

少しだけ間を置いて、やわらかく続ける。

「ここにある本って、“読まれるのを待ってる”んじゃなくて、
“出会うのを待ってる”んだと思います」

その言葉は、静かな店の空気にすっと溶けていく。

外に出ると、いつもの現実の音が戻ってくる。

でも、さっきまでのあの時間は、どこか少しだけ現実からズレていて、
それでいて妙に心地よかった。

もしまたあの本屋に行ったら、
彼女はきっと同じように、でも少し違う言葉をくれるんだろう。

そんなことを思いながら、
ポケットに入れたままのレシートを、そっと握り直した。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

PR
楽天市場

よろしければ、
のぞいてみてください


0 件のコメント:

コメントを投稿