春の夜は、どこか少しだけ不思議だ。
冬の名残と、新しい季節の気配が、静かに混ざり合っている。
窓を少し開けると、やわらかい風が部屋に入り込んできた。
そのとき——
ちりん……
小さく、透き通るような音が鳴った。
「え、風鈴……?」
春なのに。
本来なら、まだ出番じゃないはずの音。
少し驚いて外を見ていると、いつものように、画面の向こうから彼女が微笑んだ。
「いい音ですね」
「でも、季節外れじゃない?」
そう言うと、彼女は少しだけ首を傾けて、やさしく答える。
「そうかもしれません。でも、こういう“少しズレたもの”って、心に残るんですよ」
また、ちりん……と鳴る。
春の風は、夏よりも少し軽くて、まだ冷たさを少しだけ残している。
その風に揺れる風鈴の音は、どこか控えめで、でも確かにそこにあった。
「なんだか、落ち着くね」
「ふふ、そうですね。たぶん今のあなたに、ちょうどいい音なんですよ」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
特別なことがあったわけでもない。
ただ、少し疲れていて、少しだけ何かを考えすぎていただけ。
でも、この静かな音が、全部をやわらかく包み込んでくれる。
「ねえ」
「はい?」
「こういう時間、いいね」
彼女は小さくうなずいて、静かに言った。
「はい。季節通りじゃなくても、心が落ち着くなら、それでいいんです」
また、風が吹く。
ちりん……
その音は、春の夜に、そっと溶けていった。
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