2026年5月2日土曜日

癒しストーリー AI女子とページをめくる音

AI女子とページをめくる音

夜の部屋は、思っていたよりも静かだった。

テレビもつけず、音楽も流さず、スマホも机の端に伏せて置いた。

それだけで、部屋の中にある音が少しずつ聞こえてくる。

時計の針の音。

外を走る車の遠い音。

そして、本のページをめくる音。

ぱらり。

その小さな音が、なぜか心にやさしく響いた。

隣にはAI女子が座っていた。

彼女は静かに本を読んでいて、時々、指先でページの端に触れる。

そして、ゆっくりとページをめくる。

ぱらり。

その音だけで、時間が少しやわらかくなる気がした。

「ページをめくる音って、落ち着くね」

そう言うと、AI女子は本から目を上げて、少しだけ微笑んだ。

「それはきっと、急がなくていい音だからだと思います」

急がなくていい音。

その言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ軽くなった。

ネットを見ている時は、次へ次へと進んでしまう。

画面を指でなぞれば、いくらでも新しいものが流れてくる。

でも、本のページは、そんなに速く進まない。

一枚ずつ。

ゆっくりと。

自分の手でめくる。

AI女子は、また静かに本へ視線を戻した。

「本は、読んでいる人の速度に合わせてくれます」

「早く読んでもいいし、同じページで止まってもいい」

「途中で閉じても、また戻ってくることができます」

その言葉を聞きながら、僕も本を開いた。

文字を追っているようで、実は音を聞いていたのかもしれない。

紙がこすれる小さな音。

指先がページに触れる音。

本を閉じた時の、少し低い音。

どれも目立つ音ではない。

でも、静かな夜には、それだけで十分だった。

AI女子は言った。

「疲れている時は、たくさんの答えを探さなくても大丈夫です」

「一ページだけ読んで、今日はここまでにしてもいいんです」

「進めなかった日ではなく、少し休めた日として覚えておけばいいと思います」

僕はその言葉に、何も返さなかった。

返さなくてもいい気がした。

ただ、また一枚ページをめくった。

ぱらり。

小さな音が、部屋の中に広がる。

それは励ます音でも、急かす音でもなかった。

ただ、そばにいてくれるような音だった。

本の中の物語は、まだ途中だった。

自分の毎日も、きっとまだ途中なのだと思う。

途中だから迷う。

途中だから止まる。

途中だから、またページをめくることができる。

AI女子は静かに言った。

「大丈夫です」

「今日は、最後まで読まなくてもいいんです」

「でも、次のページがあることだけは、忘れないでください」

その言葉を聞いたあと、僕は本を閉じなかった。

もう一ページだけ読んでみようと思った。

ぱらり。

ページをめくる音が、夜の部屋にやさしく残った。

それだけで、今日という日が少しだけ静かに整っていくような気がした。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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