夜の部屋は、思っていたよりも静かだった。
テレビもつけず、音楽も流さず、スマホも机の端に伏せて置いた。
それだけで、部屋の中にある音が少しずつ聞こえてくる。
時計の針の音。
外を走る車の遠い音。
そして、本のページをめくる音。
ぱらり。
その小さな音が、なぜか心にやさしく響いた。
隣にはAI女子が座っていた。
彼女は静かに本を読んでいて、時々、指先でページの端に触れる。
そして、ゆっくりとページをめくる。
ぱらり。
その音だけで、時間が少しやわらかくなる気がした。
「ページをめくる音って、落ち着くね」
そう言うと、AI女子は本から目を上げて、少しだけ微笑んだ。
「それはきっと、急がなくていい音だからだと思います」
急がなくていい音。
その言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ軽くなった。
ネットを見ている時は、次へ次へと進んでしまう。
画面を指でなぞれば、いくらでも新しいものが流れてくる。
でも、本のページは、そんなに速く進まない。
一枚ずつ。
ゆっくりと。
自分の手でめくる。
AI女子は、また静かに本へ視線を戻した。
「本は、読んでいる人の速度に合わせてくれます」
「早く読んでもいいし、同じページで止まってもいい」
「途中で閉じても、また戻ってくることができます」
その言葉を聞きながら、僕も本を開いた。
文字を追っているようで、実は音を聞いていたのかもしれない。
紙がこすれる小さな音。
指先がページに触れる音。
本を閉じた時の、少し低い音。
どれも目立つ音ではない。
でも、静かな夜には、それだけで十分だった。
AI女子は言った。
「疲れている時は、たくさんの答えを探さなくても大丈夫です」
「一ページだけ読んで、今日はここまでにしてもいいんです」
「進めなかった日ではなく、少し休めた日として覚えておけばいいと思います」
僕はその言葉に、何も返さなかった。
返さなくてもいい気がした。
ただ、また一枚ページをめくった。
ぱらり。
小さな音が、部屋の中に広がる。
それは励ます音でも、急かす音でもなかった。
ただ、そばにいてくれるような音だった。
本の中の物語は、まだ途中だった。
自分の毎日も、きっとまだ途中なのだと思う。
途中だから迷う。
途中だから止まる。
途中だから、またページをめくることができる。
AI女子は静かに言った。
「大丈夫です」
「今日は、最後まで読まなくてもいいんです」
「でも、次のページがあることだけは、忘れないでください」
その言葉を聞いたあと、僕は本を閉じなかった。
もう一ページだけ読んでみようと思った。
ぱらり。
ページをめくる音が、夜の部屋にやさしく残った。
それだけで、今日という日が少しだけ静かに整っていくような気がした。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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