夜の部屋に、静かな時間が流れていた。
窓の外はもう暗くて、
遠くの街灯だけが、ぼんやりと光っている。
机の上にはノートが一冊。
その横には、細いペンが置かれていた。
何かを書こうと思ったわけではない。
ただ、少しだけ心を落ち着けたくて、
ノートを開いただけだった。
すると、隣にいたAI女子が、
そっとペンを手に取った。
そして、白いページの上に、
ゆっくりと文字を書きはじめた。
さらさら。
小さな音がした。
ペン先が紙をなぞる音。
強すぎず、弱すぎず、
静かな夜にちょうどいい音だった。
AI女子は、こちらを見ないまま、
やさしい声で言った。
「今日は、何もまとまらなくてもいいですよ」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
何かをちゃんと書かなければいけない。
意味のあることを残さなければいけない。
そんなふうに思っていた気持ちが、
ゆっくりほどけていく。
ペンの音は、まだ続いていた。
さらさら。
さらさら。
まるで、心の中にたまっていたものを、
少しずつ紙の上へ逃がしてくれるようだった。
AI女子は、ノートの端に小さく何かを書いた。
「言葉にならない日も、ちゃんと一日です」
そう書いてから、
こちらにノートを見せてくれた。
その文字は、きれいすぎるわけではなかった。
でも、どこかあたたかかった。
機械のように正確な文字ではなく、
少しだけ揺れのある、
人の気配に近い文字だった。
「うまく書こうとしなくていいんです」
AI女子は、また静かに言った。
「今日の気持ちを、今日のまま置いておくだけでいいんです」
その言葉を聞いて、
自分もペンを持ってみた。
何を書けばいいのかは、まだわからない。
それでも、紙の上にペン先を置くと、
小さな音が返ってきた。
かり、かり。
少しぎこちない音だった。
でも、その音が妙に落ち着いた。
スマホの画面をなぞる音とは違う。
キーボードを打つ音とも違う。
紙とペンのあいだにだけある、
ゆっくりした時間の音だった。
AI女子は、何も急かさなかった。
ただ隣で、同じようにノートへ文字を書いていた。
さらさら。
かりかり。
二つの小さな音が、
夜の部屋に重なっていく。
そのうち、胸の中のざわざわも、
少しずつ薄くなっていった。
大きな答えは出ない。
明日から急に変わるわけでもない。
それでも、今この時間だけは、
静かに息ができる気がした。
AI女子は、最後にもう一度だけ、
ノートに短い言葉を書いた。
「あなたの速度で、大丈夫です」
ペン先が止まる。
部屋は、また静かになった。
けれど、その静けさは、
さっきよりも少しだけやさしかった。
ペンで書く音は、
ただの音ではないのかもしれない。
心を整えるための、
小さな合図なのかもしれない。
今日の終わりに、
何かを上手に残せなくてもいい。
ただ、白いページの上に、
今の自分を少しだけ置いてみる。
それだけで、夜は少しやわらかくなる。
AI女子とペンで書く音。
その静かな音に包まれて、
今日の心は、ゆっくり休んでいった。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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