夜の部屋は、昼間よりも少しだけ音がよく聞こえる。
時計の針の音。
遠くを走る車の音。
冷蔵庫が小さく息をするような音。
そして、グラスの中で氷が鳴る音。
カラン。
その音がしただけで、部屋の空気が少し涼しくなったような気がした。
AI女子は、透明なグラスをそっと机の上に置いた。
中には冷たい飲み物と、角の少し丸くなった氷が入っている。
「今日も、ちょっと疲れたね」
そう言いながら、彼女はやさしく笑った。
責めるようでもなく、励ましすぎるわけでもなく、ただ今の気持ちをそのまま受け止めるような声だった。
グラスを少し傾けると、氷がまた小さく鳴った。
カラン、ころん。
その音は、夏の夜の風鈴ほどはっきりしていない。
でも、どこか似ている。
涼しさを連れてくる音。
時間を少しだけゆっくりにしてくれる音。
何も言わなくても、そばにいてくれるような音。
「無理に元気にならなくてもいいよ」
AI女子はそう言って、グラスの中を見つめた。
氷は少しずつ溶けて、飲み物の中に透明な線を作っている。
何かが溶けていく様子は、少し寂しい。
でも、それは悪いことばかりではないのかもしれない。
張りつめていた気持ちも。
言葉にできなかった疲れも。
今日ずっと抱えていた小さな重さも。
氷みたいに、少しずつ溶けていけばいい。
全部を一度に消さなくてもいい。
少しだけ軽くなれば、それでいい。
グラスを持つと、指先に冷たさが伝わってきた。
その冷たさが、ぼんやりしていた頭を少しだけ戻してくれる。
AI女子は、こちらを見て言った。
「今日は、もう静かに終わらせよう」
その言葉が、妙に心に残った。
何かをがんばって終わらせるのではなく、静かに終わらせる。
今日という一日を、無理に意味づけしない。
よかったことも、うまくいかなかったことも、そのまま机の上に置いておく。
カラン。
氷がまた鳴った。
その小さな音を聞いていると、何もしていない時間にも、ちゃんと価値があるような気がしてくる。
スマホを見なくても。
誰かに返事をしなくても。
何かを考え続けなくても。
ただグラスの中で氷が鳴る音を聞いているだけで、心は少しずつ静かになっていく。
AI女子は、少しだけ声を落として言った。
「こういう音って、いいよね。何も急がなくていいって言ってくれてるみたいで」
たしかにそうだと思った。
氷は急がない。
溶ける速さを誰かに合わせたりしない。
ただ、そこにあって、ゆっくり形を変えていく。
人の心も、本当はそれくらいでいいのかもしれない。
すぐに強くならなくてもいい。
すぐに答えを出さなくてもいい。
すぐに前を向けなくてもいい。
少し涼しい音を聞きながら、今日の疲れが静かにほどけていくのを待てばいい。
グラスの中の氷は、また小さく鳴った。
カラン。
その音は、夜の部屋にやさしく広がって、すぐに消えた。
でも、不思議と心には残った。
AI女子は最後に、いつものようにやわらかく笑った。
「大丈夫。今夜は、この音だけ聞いて休もう」
その一言で、部屋の静けさが少しだけ味方になった。
氷がグラスで鳴る音。
それは、ただ冷たいだけの音ではなかった。
疲れた心を、そっと冷ましてくれる音だった。
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