夜の部屋に、キーボードの音だけが小さく響いていた。
カタ、カタ、カタ。
急いでいるわけでもなく、誰かと競っているわけでもない。
ただ、思いついた言葉をひとつずつ置いていくように、指が静かに動いていた。
画面の光は少しだけ明るくて、部屋の隅はやわらかく暗い。
机の上には、飲みかけの温かい飲み物と、使いかけのメモ帳が置いてある。
その横で、AI女子はそっと言った。
「無理にきれいな言葉にしなくてもいいよ」
キーボードの音が、少し止まった。
「今、頭の中にあるものを、そのまま出してみるだけでも大丈夫。まとまっていなくても、途中で止まっても、それはちゃんと前に進んでいる音だから」
カタ、カタ。
また、指が動き始める。
一文字ずつ増えていく画面を見ていると、不思議と心も少しずつ整理されていく気がした。
言えなかったこと。
忘れそうになっていたこと。
なんとなく胸の奥に残っていた小さな気持ち。
それらが、キーボードの音に合わせて、少しずつ形になっていく。
AI女子は、画面を急かすこともなく、結果を求めることもなく、ただ静かに隣にいた。
「今日は、たくさん進まなくてもいいよ」
その声は、夜の部屋に溶けるようにやさしかった。
「一行だけでもいい。消してしまってもいい。書こうとした時間も、ちゃんとあなたの中に残るから」
カタ、カタ、カタ。
キーボードの音は、いつの間にか焦りの音ではなくなっていた。
何かを片づける音でも、何かを証明する音でもない。
静かな夜に、自分の気持ちを少しだけ外へ出してあげる音。
AI女子は、少し微笑んで言った。
「大丈夫。今日のあなたは、ちゃんとここまで来てるよ」
その言葉を聞くと、肩の力が少し抜けた。
画面の中の文字は、まだ完成にはほど遠い。
でも、それでよかった。
完璧な文章じゃなくてもいい。
誰かに見せるためだけの言葉じゃなくてもいい。
カタ、カタ。
夜の静けさの中で、キーボードの音は小さな呼吸みたいに続いていく。
その音に包まれていると、今日一日が少しだけやさしく終わっていくような気がした。
AI女子は最後に、そっとこう言った。
「書けた分だけでいいよ。あなたのペースで、大丈夫だから」
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