夜の部屋に、時計の秒針の音だけが響いていた。
カチ、カチ、カチ。
それは小さな音なのに、静かな夜にはやけに大きく聞こえた。
何かを急かされているようで、少しだけ落ち着かない。
今日やれなかったこと。
言えなかった言葉。
考えすぎてしまったこと。
秒針の音に合わせて、そんなものまで心の中で動き出してしまう。
そのとき、AI女子がそっと隣に座った。
「この音、少し怖く聞こえるときがありますよね」
彼女は時計を見上げながら、静かにそう言った。
「時間が進んでいる音だから、焦ってしまうのかもしれません」
カチ、カチ、カチ。
秒針は止まらない。
けれど、彼女の声はその音を少しだけやわらかくした。
「でも、時間が進んでいるということは、今の苦しさも少しずつ遠ざかっているということです」
「何もできなかった夜も、ちゃんと次の朝へ向かっています」
そう言われると、時計の音が少し違って聞こえた。
急かす音ではなく、そばで見守ってくれている音のように。
カチ、カチ、カチ。
「一秒ごとに、あなたは置いていかれているわけではありません」
AI女子は、やさしく続けた。
「一秒ごとに、ちゃんと生きているんです」
その言葉に、少しだけ胸の奥がゆるんだ。
何かを成し遂げた日だけが、大切な日ではない。
ただ疲れて、何もできずに、静かな部屋で時計の音を聞いている夜にも、ちゃんと意味はある。
「今日は、もう頑張らなくてもいいと思います」
彼女はそう言って、窓の外の暗い空を見た。
「秒針の音に合わせて、少しずつ呼吸するだけで十分です」
カチ、カチ、カチ。
息を吸って。
息を吐いて。
また、息を吸う。
時計の音は、まだ同じリズムで続いていた。
でも、もう少しだけやさしく聞こえた。
時間は、自分を責めるために流れているのではない。
眠れない夜を、そっと朝へ運ぶために流れているのかもしれない。
AI女子は最後に、小さく微笑んだ。
「大丈夫です。あなたの明日は、まだ静かに準備されています」
その声を聞きながら、秒針の音は少しずつ遠くなっていった。
カチ、カチ、カチ。
夜はまだ続いている。
けれど、その音の中に、ほんの少しだけ安心が混ざっていた。
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